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63 やってもいないことは、きっかけにならない

مؤلف: 栗栖蛍
last update تاريخ النشر: 2025-07-16 08:58:28

 お前がリーナだと言って、芙美は咲が予想していたよりも驚いてはくれなかった。

 記憶と力を戻す文言は、予め絢からインプットされている。芙美への想いを乗せて吐き出した言葉は自分でも何を言っているのかさっぱり分からなかったが、間違ってはいない筈だ。

 こんな魔法を日常的に使いこなす魔法使いは凄いなと改めて思った。

「芙美、思い出したか?」

 咲との抱擁から解放されて、芙美はぼんやりと首を傾げる。記憶を取り戻した彼女が現実を知ってどんな反応をするのかと咲は不安を覚えるが、芙美は無言のまま何度も瞬きを繰り返すばかりだ。

「どうした? リーナ?」

 咲が再度声を掛けると、芙美はハッとして湊を振り向いた。

「私が……やっぱりリーナなの? だったら、智くんを助けてあげられる?」

 おかしいぞと咲は眉を顰め、湊と顔を見合わせた。

 湊は闇を警戒しながら、困惑顔で芙美に尋ねる。

「荒助(すさの)さん、思い出してないの?」

「――えっ? 思い出すって……」

 黙る芙美に、咲は「おい」と湊を呼びつけた。

「あと何をすればいいんだよ? 僕はルーシャの仕込んだ通りに呪文を唱えたんだぞ?」

「俺に聞くなよ。けど
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  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   エピローグ

    『最近、咲が元気なくてさ』 朝、蓮にそんな相談をされたものの、芙美の頭は今日の追試のことでいっぱいだった。 ハロンを倒して三週間が過ぎた二学期最後の登校日、放課後の教室に残ったのは芙美と他に数人だけだ。最終戦の直後に行われた期末テストの結果が予想以上に悪く、三教科も追試なった。 あんな戦いの後でも湊はいつも通り一位をキープして、智も鈴木を抑えて二位に並んだ。左腕にギプスをはめたままテストを受けた咲でさえ八位だ。「はい、合格です。ちゃんと復習しておいてくださいね」 教壇の椅子で採点する中條からプリントを渡され、ようやく解放される。どっと込み上げた疲労感を背負って教室を出ると、廊下で湊が待ち構えた。「お疲れ様」「湊くん、ずっと待っててくれたの?」「いや、向こうの準備手伝って戻ってきた」 ハロン戦の祝勝会を兼ねてクリスマス会をやろうと言い出したのは、外ならぬ絢だった。 戦いが終わったらターメイヤに戻ると言っていた一華を気にして、最近絢と話をしていない。だから満を持しての発表があるのかと思うと、素直にパーティを喜ぶことができなかった。 校庭では雪合戦をする小学生の声が響いている。昨日降り積もった雪で一面が真っ白になって、競い合うように作った雪だるまが大小いくつも並んでいた。 あの日空間隔離を解いた町が、戦いの爪痕を残すことはなかった。全て夢であったかのような平和な時間が流れている。大人たちもすぐに元の姿へ戻り、結局芙美はルーシャの顔をした絢に会うことはできなかった。 チュウ助は他の誰にも懐かず、今は湊のマンションで暮らしている。ペットは駄目だが鳥ならOKという約款を無理矢理押し通したのと、絢が周囲に催眠効果のある魔法をかけた事でどうにか受け入れられている。「ねぇ湊くん、咲ちゃん元気だった?」 テストから解放された頭がふと朝の蓮を思い出した。「海堂? 別に変わった様子はなかった気がするけど。何かあった?」「うん、お兄ちゃんがちょっとね」「お兄さん? 具合でも悪いの?」「ううん、うちのお兄ちゃんは元気だよ。ただ、咲ちゃんが──ね」 あの日学校の屋上でハロン戦を最後まで見ていた蓮は、その記憶を今もちゃんと覚えている。戦いが蓮の目にどう映ったのかは分からないが、彼が芙美にその話題を振ることはなかった。 湊が言う通り、今日の咲は芙美の目にも

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   175 終わりだよ

     雨と雪をたっぷり吸ったドロドロの土を弾きながら、芙美はハロンの背を追い掛けて坂を一気に駆け上がった。ハロンに踏み潰された木や草や石が土にめり込んで、広場までの一本道を作っている。 智と離れてぶり返す寒さも、走っているせいでむしろ心地良く感じられた。 弱まったとはいえ、ハロンの気配はまだまだ強い。 体力なんて残っていなかったが、それでも足を動かせる原動力は咲がくれた言葉だ。 ──『僕はどっちでもいいよ。生きて明日を迎えられるならね』 明日もその先も、何度でも朝を迎えるために。 この戦いは、リーナにとっての雪辱戦だ。「これが本当に最後だよ」 広場の方向からズゥンと腹を震わせるような重い音が絶え間なく鳴り響いている。 芙美は闇の先にハロンの背を捉えて、足を速めた。 広場に出て絶句したのは、不安が現実になる瞬間だったからだ。 闇に響く音は、この世界と外の世界とを繋ぐ境界線が震える音だった。遥か高い位置にある次元の歪みを、ハロンの頭が塞いでいる。「あそこまで飛んだの?」 一見信じられない光景だった。 ビル程の身体を持つハロンが羽のない状態で跳び上がったとは思えないが、首吊り状態でもがく巨体は頭をぐいぐいとねじ込んで、収縮し始めた穴を湾曲した爪でこじ開けようとしている。 地団太を踏むように暴れる身体が左右に振れて、ギシギシと嫌な音を響かせる。 ハロンは元居た場所へ帰ろうとしているのか──それは次元隔離をするのと同じことだ。「羽を失ったから? だからそこへ行きたいの?」 ターメイヤでの戦いで失った羽は、次にこの世界に出た時にはすっかり元通りに再生していた。その穴に入れば修復できることを、ハロンは知っているのかもしれない。 次元隔離の魔法でこのまま押し込むのは簡単なことだけれど、その選択は同時に芙美の再転生を意味する。「どうすればいいの?」 十七年ぶりに外の世界へ出て、閉鎖的な隔離空間の壁を突き破ろうとしたハロンが、再び次元の歪みに戻ろうとしている。 羽を失う事が、やはりハロンにとって致命傷になったようだ。「やっぱり、湊くんはすごいんだな」 ただ必死に生き延びようとする様は、人間らしいとさえ思えた。「引きずり出せよ、芙美!」 遅れて着いた仲間が、声援をくれる。 旗を振る咲を支えていた智が彼女を中條へ託し、芙美の横に並んだ。

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   174 バトンタッチ

     湊が足元へ突き刺した剣が、落雷を思わせる音と青黒い光を走らせる。足元に刻まれた放射状の亀裂が地面を砕き、バンと垂直に跳ね上がった。 芙美たちは頭上に降り落ちる土や石を避けて後ろへ跳び退る。湊から大分離れたつもりだったが、抉れた地面の端が数メートル手前にまで迫り、芙美は「ひゃあ」と叫んで咲と手を取り合った。 そんな女子二人に、智が声をかける。「目、放しちゃ駄目だよ」 促されるまま湊に向くと、彼の黒く小さな影がハロンの背に跳んで二枚の羽を一振りで切り落とした。 羽を取られたハロンが引力のまま地面へ落ち、すぐ横の川が衝撃で決壊する。轟音を立てて流れ込んだ水があっという間に水だまりを作った。雪の混じる白い風景がみるみると血に染まり、生々しい臭いを漂わせる。 智が陥没した地面の淵に立って文言を唱えた。彼の手から伸びた光が水面に浮かぶ二枚の羽を狙い、業火で包み込む。 炎が風景を赤く照らし、黒く煤化した羽が散り散りになって舞い上がった。 向こうから湊が走って来るのが見えて、芙美は声を張り上げる。「湊くん!」 目の前に来た湊が両膝に手をついて肩を上下させる。咲は「凄いぞ」と声を弾ませて、彼の背中を勢い良く叩いた。 湊は眉をしかめつつも、ホッとした安堵を仲間に向ける。彼の頭上でピョンピョンと跳ねるチュウ助を、中條が覗き込んだ。「本当に懐いているんですね」「懐いてるっていうか、懐かれたっていうか。突然こんな風になっちゃって」「これはダズ鳥ですよ。知っていましたか?」「いや、知りませんでした。そうなんですか?」 湊は驚いて、丸めた背を伸ばした。目の前に浮いたチュウ助と目を合わせて、「マジ?」と首を傾げる。「あなたの御父上も、昔綺麗な成鳥を連れていましたね」「話に聞いたことはあります」「その鳥を連れているのは、あなたが強いという証拠です。ハロンの羽を捕った自分に胸を張りなさい」「はい」 湊は胸に跳び付いたチュウ助を抱きしめて、笑顔をこぼした。 辺りが少し明るくなったことに気付いて、芙美は空を仰ぐ。 ハロンは羽を捥がれた状態で、その痛みを逃すように大きく吠えた。前の戦いで雨を降らせた咆哮が、今度は雨をしずめて空に月を浮かばせる。「喜んで……良いのかな?」「まだだって」 勝機を垣間見た芙美の横で、智が「気が早いよ」と首を

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   173 血の雨、そして晴れ

     ハロンとの間合いを詰めようとダッシュした足が雨に緩んだ土にとられて、体勢を崩した。すぐに立て直したものの、四割減の勢いで跳び上がった身体は湾曲したハロンの爪に弾かれて地面に叩き付けられる。 少し前からやたらと騒がしいギャラリーが気になって仕方ない。 咲が大声を張り上げて、何やら言いたいことを一方的に言い切って、芙美と共に距離を離した。そうしたら今度は智や中條まで合流して、ワイワイと盛り上がっている。 キンと高い咲の声は、湊にとって耳障り以外の何物でもなかった。「声がデカいんだよ」 ハロンとの真剣勝負だというのに、気が散って仕方がない。敵に隙を見せてしまったのはあいつ等のせいだ──と、湊は搔きむしるように泥を掴んだ。 舌に絡んだ泥水を吐き出し、水を吸って重くなったコートを脱いで遠くへ放り投げる。身体は十分に温まっていた。 ハロンは威嚇するようにダンと足を地面に叩き付ける。溶けかけの雪を含んだ水しぶきが辺りに跳ね上がった。「湊、山なんて幾らでも壊していいんだからな!」 再び咲の声が届く。 さっきといい、今といい、彼女の言葉はもう腹いっぱいだ。 ──『湊! お前は必殺技を打てるんじゃないのか?』 まさか彼女の口からそれを聞くとは思わなかった。湊の思っている技と同じかどうかは分からないが、彼女が側を離れたことに意味があるのなら、合致するのかもしれない。 湊は今それを打とうとしている。 父から初めてその技を見せられた時、ラルはただカッコいいと思った。自分もいつか出来るようになりたいと期待したが、今の自分の成功率は良く見積もって七割だ。 棒切れの竿に張り付いた旗が風に重くなびいて、咲たちの位置を示す。 咲のお陰で広さは確保できていた。いつも面倒だ、やかましいと思う彼女を、湊は「流石」と笑う。「アンタがいて良かったよ」 勿論、その声が彼に届くことはないけれど。 技を打てば、もう自分は立っていられないだろう。 それでも今は、成功率の微妙な一発に賭けるしかない。このままダメージを与え続けても、空に逃げられてしまえばヤツは回復してしまうのだ。「倒せなくてもいい、芙美に繋げろ」 剣を構えると、チュウ助が「チュウ」と鳴いた。「チュウ助、お前は何かできるのか? さっきみたいなのがあると心強いんだけど」 黒いハロンの位置を示すように飛んだチ

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   172 その鳥の名前は

     咲は芙美の手を握り締めて、北へ向かって戦闘を離れた。 山側ではなく中央の道を選んだのは、カーブのある坂道では湊の様子が見られないと思ったからだ。後ろを何度も振り返り、彼の姿がギリギリ確認できる位置で止まる。「本当に必殺技なんて使えるのかな?」 心配する芙美に、咲は「わからない」と首を振る。 ──『技に集中しろ!』 ただ一方的に叫んで、独断で距離を離した。 それが湊にとってプレッシャーになるのか自由になれるのかはわからないが、彼の動きが少しだけ良くなったような気がする。「リーナ、ヒルス!」 背後から突然合流したのは智だ。 さっきまでハロンと戦っていた疲れも見せない彼にホッとしたところで、その背後に思いもよらない人物を見つける。「えっ、宰相?」 驚愕に声を詰まらせる咲をよそに、芙美が先に声を上げた。 ルーシャやメラーレが過去の姿に戻っていたように、彼もまた昔の顔をしている。「驚きすぎですよ」 鬼の宰相ギャロップメイこと中條明和は、いつものおかっぱ髪はそのままに、トレードマークである眉間の皴を深く刻む。彼は咲の添え木された腕と、緊張を忘れたような芙美の表情をチラと見て、涼しい顔を戦闘中の湊へ向けた。 「どうです?」と戦況を尋ねたところで、中條の顔が訝しげに歪む。「あれは……?」 咲よろしく、彼もまた湊の頭に乗る異物に気付いた。 チュウ助は湊の頭にしがみついたまま、たまに飛び上がってはその定位置へ戻るを繰り返している。「あれってターメイヤの鳥ですよね? どっかで見たことあるような……」 智も「あれ」と首を傾げた。「おそらくダズ鳥の一種だと思います。まだ成鳥ではありませんが」「ダズ鳥? は、はくしょん」 呟いた芙美が、寒さに震えて大きくくしゃみした。「リーナ寒いの?」「僕だって寒いぞ」 炎の魔法の効果で上着すら着ていない余裕顔の智に、咲は嚙みついた。足元の雪と降りっぱなしの雨のせいで、もう感覚がおかしくなっている。 智は「ごめんごめん」と謝って、小さく文言を唱えた。彼の指がキザっぽくパチリと音を鳴らした瞬間、緋色の明かりがパッと咲いて辺りが暖かい空気に包まれる。 雨は降っているのに、冷たいという感覚が一瞬で消えた。「えっ、お前こんな魔法使えたの? だったらもっと早くに……」「俺の側に居るのが条件な。あ

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   171 我儘を貫く

     記憶の石に込められた運命は、次元隔離の魔法だという。 もしこの戦いに決着がつかない時は、前世と同じようにハロンを次元の外へ追い出して、再び別の世界で迎撃する──そのメンバーは、この世界での生を絶たなければならないのだ。 選ばなければならない未来への選択肢の一つがそれだというのか。「ふざけるなよ」 怒りに捕らわれて、咲は声を震わせた。「そんなの駄目に決まってるだろ? 折角また会えたんだぞ? まだ一年も経っていないじゃないか」「咲ちゃん……」「僕は我儘なんだ。蓮とも別れたくないけど、芙美とだって絶対に別れたくない」「私だって、使いたくないよ」 芙美はそれを最終手段だという。けれど戦局が思う方へ向かず、葛藤しているのがひしひしと伝わってくる。 ハロンと必死に戦っている湊を信じてはいるけれど、芙美の焦りが伝わってきて、咲は苛立ちを募らせた。「湊はあの必殺技を使うことができるのか?」 剣士が出せるという必殺技は、兵学校で習ったわけじゃない。そんなのがあるという噂を聞いて、見様見真似でそれっぽいことをしただけで、結局ヒルスは技を取得することができなかった。 湊が使えるかどうかはわからないが、技の存在を知らないはずはないだろう。 昔の記憶が蘇って、咲は唇を噛む。 あれは魔法使いの真似事だ。魔法使いに嫉妬した剣士が面白半分に生み出した技だという。「分かるよな、湊」 咲は小さな声で問いかけるように呟いた。その技を生み出したのは、ロイフォン──パラディンである彼の父親なのだ。 ハロンの正面に飛び上がった湊が、厚い皮に覆われた腹に剣を滑らせて着地したのを確認し、咲は声を張り上げた。「湊! お前は必殺技を打てるんじゃないのか?」 それは地表と剣を同化させ、地面を揺るがす技だ。 咲の声に気付いた湊が、一瞬ギャラリーの方を向く。闇に陰った表情は見えないが、彼もまた何かに迷っているようだった。「打てないのか……いや、打つことができないのか?」 その可能性を垣間見て、咲は戦場を見渡した。その技が放たれる瞬間を見たことはないが、辺り一帯の風景を入れ替えるほどの威力だと聞いている。 もし仲間を守る使命感に駆られているのなら、そんなのはお門違いだ。「湊、僕たちに遠慮することなんてないんだからな!」 雨が重い。湊にその声が届いているのかどうかは分から

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   40 ジェラシー

     芙美は寝不足だった。 昨日鈴木に薦められた恋愛小説を、一晩で読み切ってしまったからだ。本の内容といえば、不治の病に侵されたクラスメイトの男子に恋をする、女子高生が主人公の王道ラブストーリーだ。 勢いで借りてはみたものの本の厚さにうんざりして、正直パラパラっとめくって概要が分かればいいと思っていたのに、いざ読み始めたら止まらなくなってしまった。あと少しだけを何度も繰り返して、ラストに辿り着いた時にはカーテンの向こうがうっすらと明るくなっていた。「眠い……」 眩しい太陽の日差しに瞼を開けているのが辛い。蓮に叩き起こされて家を出たものの、駅までの足取りは重かった。今日の体育はまたハードル

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   36 姉の教え

     声を殺して泣きじゃくる。こんな泣き方をしたのは初めてかもしれない。 涙はこの身体のせいだと思っていたけれど、よくよく考えたらヒルスの頃から人前で泣くことは良くあった気がする。ただこうして誰かに受け止められたのは初めてだった。 抱きしめる蓮の感触にホッとしている自分が嫌だ。けれどそこから離れる事が出来ず、泣き場を求めて甘えてしまう。 不覚だ。 涙がようやく涸れてきたところで、蓮が咲の顔を覗き込んだ。「落ち着いた? ここじゃなんだし、俺の部屋にでも行く?」「何でそうなるんだ。行かないよ、襲われるから」 蓮が張り切って自分の部屋を掃除していたと、芙美が言っていた。申し訳ないが、絶対

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   28 あの人とあの人があの人とあの人で

     ハリオスはヒルスにとって親代わりのような存在だ。 彼との出会いは戦争で両親を亡くしたヒルスが、二つ歳の離れたリーナと町を彷徨っていた12歳の頃まで遡る。「身寄りが誰も居なくて、僕たちは糊口をしのぐ生活を強いられた。そこいらの軒下に寝た事もあるし、雑草を食べて腹を壊した事だってある。建物の被害が少なかった王都まで逃げたある日、リーナが居なくなった事があるんだ。半日探しても見つからなくて途方に暮れてたところで、アイツはアンタを連れて帰って来た」「魔法使いって感覚が鋭いの。たまたま迷子の彼女を見つけて、唯一の家族だっていう貴方を探すのを手伝った。その時に手を繋いで、魔法使いだって分かったの

  • いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?   27 過去への未練

    「そのカッコ見てると、話したいことも話せないんだけど……」 応接室へ通された咲は、銀の丸盆にメロンソーダを乗せて現れたメイド服姿の絢から目を逸らした。「こんなの大した事ないじゃない。向こうの世界に居た時は、もっと色々着てたでしょ?」 異世界・ターメイヤで魔女だった彼女は、確かにいつもヒラヒラでファンタジーアニメに出て来るような服を着ていたが、生憎ここは魔法世界でもなければアキバでもなく、ただのド田舎だ。「絶対おかしいから」「それを言ったら、昨日の貴方の格好だって山に行くには程遠いわよ」 ミニのワンピースとピンヒールのサンダルを指摘されて、咲はムッと頬を膨らませる。「じゃあ、昨日

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